下に行くほど新しい作品です。
ネタバレは最小限にとどめてあります。
スポンサーサイトユウゴくんは、手を繋いでくれない。ぼくとの関係がまわりにバレるのが嫌だからなんだって。だから登下校の最中や学校では、手を繋ぎたくないんだって。こんな関係になる前は、どこでも自由に手を繋いだり肩を組んだりしていたのに。今では、ユウゴくんとぼくとの間に見えない壁ができている。
こんな関係がいけないってことは分かっている。でも、互いが互いを求める以上、やめることはできなかった。だから、ぼくらにできるのは、それをまわりに悟られないことだけだった。
今日ぐらいは気が変わって手を繋いでくれるかと思ってユウゴくんに手を伸ばしてみる。でも、ユウゴくんは、ランドセルでぼくの手を防いで体を反らす。
今日もけっきょく一言も言葉を交わさないまま、家の前に着いた。挨拶もせず、ユウゴくんは通り過ぎて離れて行く。彼に聞こえないように小さくため息をついて、家に入る。
靴を脱いで玄関を上がる。両親は共働きだから家の中は薄暗い。明かりも付けずにぼくは裏口へ向かう。ドアの鍵を開けて、廊下に正座して待つ。外から、駆け込む足音が聞こえてきた。
ドアが開く。光と一緒に、息を切らしたユウゴくんが滑り込んでくる。ユウゴくんは、興奮した様子とは裏腹に音がするまで慎重にドアを閉める。再び薄暗くなった家の中で、ぼくらは今日、初めて向かいあった。
「ヨウスケーっ!」
はちきれんばかりの声と笑顔で、ユウゴくんはぼくに抱きついてくる。ランドセルがクッションになって、ぼくは倒れた。
学校でできなかった分を取り戻すように、ぼくらは互いを求めた。制服もランドセルも脱がずに、廊下をベッドにしてぼくはユウゴくんと舌を交える。ぼくが空いた片腕を彼の肩に回すと、ユウゴくんも同じように空いた片腕をぼくの肩に回す。ユウゴくんが足をぼくの足に絡めてくると、ぼくも同じように足を絡める。給食に出たプリンの味が、彼からぼくの口へ伝わる。
「んっ……、んう……。わっ、やっ……」
突然、ユウゴくんの片手がぼくのせつないところに触れた。びっくりして身を引くと、ランドセルが邪魔で体が少し浮いた。
「だめっ……、こんなところで」
ユウゴくんは、はじめはぼくの膨らんだところをなでるように半ズボンの上で指を這わせていた。でも、次には、半ズボンのジッパーに手をかけ、わずかに空いた部分に指を入れ、どんどんジッパーを下ろしていく。彼の指が、ふくらんだパンツに触れる。ぼくのパンツの先っぽはもうぬるぬるが染み込んでいて、いつの間にかユウゴくんの指がその中へ滑り込んでいく。身をよじってユウゴくんの体から逃れても、彼の指は離してくれなかった。
「あっ……うあっ……、ユウゴくんのばかっ。こんなところで、あっ……んっ……」ユウゴくんは、とろとろでぐちゃぐちゃになったぼくのパンツごしに、形のくっきりした物体をもてあそぶ。すぐに、おなかの奥から、我慢しようと思ってもできないものが沸き上がってくる。
「やっ、やめっ、ユウゴくんのばか! あっ、ほんと、やっ……。あっ、ああっ!」お腹の奥に力を入れても無駄だった。ぼくは、ぬるぬるにまみれたユウゴくんの手で、達した。
「あっ……うっ……」たぱたぱと、ぼくの液体が床を叩く。半ズボンの外に先端が出ていたおかげで、半ズボンの中は汚れなかった。床を見ると、牛乳をこぼした跡のように白が広がっている。廊下では決して嗅ぐことのない臭いが鼻を突く。
「ヨウスケ……」ユウゴくんは、なおもぼくを求めて、ぼくの半ズボンのホックに手をかけた。でもぼくは、身をよじってその手を逃れ、立ち上がった。
ユウゴくんは、きょとんとした目でぼくを見上げる。
「勝手だよ」
一度果てて落ち着いたせいか、ぼくは短く言い放ってユウゴくんから顔を逸らし、天井を見上げる。嫌だと言ったのに、事をむりやり進めた彼を許せなかった。
沈黙があたりを支配した。どうしようと迷っているのか、ユウゴくんの視線を感じた。
しばらくして、服のこすれる音が聞こえた。ぴちゃぴちゃと猫が水を舐めるような音も聞こえる。
気になって視線をユウゴくんに戻す。彼は、床にこぼれたぼくのミルクを舌ですくい取り、舐めとっていた。
「えっ……、ユウゴくん……なっ……」
「悪かった。だから、責任、とってる」戸惑うぼくに、ユウゴくんはねばねばのせいでくぐもった声で言った。
別にぼくは、そこまでして欲しいわけではなかった。ただ、ぼくの気持ちを無視して自分の欲求ばかり満たそうとするユウゴくんに、そのことを気づいて欲しかっただけで。
だから、ぼくもとっさに、床へ膝をついた。そして、ユウゴくんと同じように、床にへばりつくぼくのいやらしい液体を舐めた。自分のを直に舐めたのは初めてだった。
ゴツンと頭に音が響いて、ぼくとユウゴくんの頭がぶつかった。照れを隠すように、ぼくはぶつかった頭を片手で押さえる。そして、仲直りをするように、ユウゴくんの口を求める。ユウゴくんも、ぼくの肩に手を回し、唇を求めてきた。
ぼくは、両肩に回ってきたユウゴくんの腕を両手で受け止めると、その手を彼の手の方へと滑らせる。
「手、つないで……」
ユウゴくんの唇に触れあう直前、ぼくはねばねばでしわがれた声で言った。彼の鼻がぼくの鼻に触れるのを、彼の手がぼくの手を強く握りしめるのを感じた。そしてぼくらは、唇同士を、舌先を、指先を絡めた。
口に残るいやらしい液体を舐めとり、一度唇を離す。そしてもう一度、今度はきれいになった唇を合わせて、ぼくらはお互いの口を堪能した。
「なぁ、いいだろ……。どうせ、あとで掃除するんだし」
舌が疲れて口を離した後、ユウゴくんは言った。本当は、まだいやらしい液体と臭いの残る廊下を掃除してぼくの部屋に入って、ひとつになるのが正しいのだろう。でも、ぼくも、我慢できなかった。
返事をする代わりに、ぼくは制服を脱いで、シャツを脱いだ。汚さないように気をつけながら半ズボン、パンツ、靴下も脱いで、ぼくらの間に割って入るものはみんな廊下の向こうへ放り投げる。壁に向かって手をついて、ユウゴくんに腰を差し出す。
ユウゴくんの両手が、ぼくの腰を挟むように触れる。硬い物が肌に触れる。ぼくの硬くなった部分が、それを歓迎するように跳ねた。ユウゴくんが、ぼくの体内へと入ってくる。
「あっ! う……あう……くっ、あ……はぁ……はぁ……」
体中が心臓になったみたいにドキドキが鳴り響いて、悦びがぞわぞわと駆け上ってくる。
「痛いか?」
ユウゴくんは、お腹や胸をぼくの背中に当てる。彼の体温を感じながら、ぼくは首を横に振る。彼のはいつも以上にぬるぬるしていて、ぼくの中にすんなりと収まっていた。
ユウゴくんは、ぼくのお腹の中にある気持ちいいところを何度も掘り当て突き上げる。その反動でぼくの宙に飛び出た部分がぺちぺちとお腹にぶつかり、言葉を忘れた音が口から漏れる。ユウゴくんの吐息がぼくの後ろ髪を撫で、ときどき出す小さな声がぼくの耳をなでた。
「うっ……おっ、ふっ……はっ、ヨウスケ……やべぇよ……」
ぼくの体を貪りながら、ユウゴくんは声を絞り出す。
「あっ……う、うん……ぼ、ぼく……も、んあっ……」
廊下は、ぼくらの声と、ぼくらの体がぶつかって立てる音とで満たされていた。玄関の前に立てば、外にいてもぼくらの声が聞こえるかもしれない。もし誰か、郵便の人とかが家の前にいたら? そう考えるだけで、背中にぞくぞくしたものが走った。
「ヨウスケ、おれ……でる……! でるぞ……!」
ユウゴくんの動きが早くなる。ぼくは目を閉じる。じわじわと、ぼくらの愛の結晶が、お腹の奥からこみ上げてくる。本当にひとつになれる時が近づいていた。
「う、うんっ……、いいよ! ユウゴく、いっぱいだして! あんっ……、ぼくのなかに、ぜんぶ……くっ……」
「ヨウスケ、ヨウスケ! うあっ!」
「ふぁっ! ユウゴく……! ああっ!」まるでぼくの奥深くに自分を押し込むように、ユウゴくんは今まで以上に激しく突き上げた。びくんと、ぼくの体は同時に達してその勢いでのけぞる。ユウゴくんとの愛の結晶が、止めどなくあふれ出して、顔からお腹にかけて熱い跡を残した。
「あ……あっ……んくっ……ユウゴく……ふぁ……」ユウゴくんの硬いものが脈打ち、ぼくの中を満たしていくのを感じる。とくんとくんしたその動きは、ぼくの体の中へ確実に好きの証を送り出していた。
ユウゴくんがぼくの中から自身を引き抜くと、入りきらなかった液体が床にこぼれた。まるで漏らしているようで恥ずかしいのと疲れたのとで、ぼくはその場にへたり込む。
「お前んち、すげー汚しちまったな」脱ぎ捨てた半ズボンからティッシュを取り出して、ユウゴくんはあたりを眺める。
「うん……。どうしよ……」ユウゴくんの言うとおりだった。床や壁のあちこちに、ぼくらの関係を見せつけるように結果が残っていた。
急いで、ぼくらは体に付いた液体を落とし、制服を着直してあたりの掃除に取りかかった。制服なんか着なくても良かったけど、そうするともし誰か訪ねてきた時に言い訳できなかった。
「えへへ……。はじめての共同作業だね」床の雑巾がけを終えて、壁を雑巾でごしごししながらぼくはユウゴくんを見る。
「別に……。はじめてじゃねーだろ」恥ずかしいのか、ユウゴくんの顔が少し赤くなる。ぼくは、空いたユウゴくんの片手を握った。
「ねぇ。家の中だけじゃなくてさ、学校でも、帰り道でも、手、つなごうよ」
「ば……、な、なに言ってんだよ。もしおれたちの関係がバレたら、いじめられるだけじゃすまねーかもしれねーんだぞ」突然のことに驚いたのか、ユウゴくんの声は震えていた。
「わかってるよ。こんな関係、いけないってこと。でも、下級生は手つなぎながら歩いてたりしてるし、きっとばれないよ」
「でも……。だけど……」
「手をつなぐだけでいいんだ。それ以上は望まないから」気がつくと、ぼくも声が震えていた。鼻の奥が押しつぶされるような感覚がわき上がってくる。ぼくは、ユウゴくんから目をそらす。目の前がかすんで、彼の顔はもう見ていられなかった。ため息にも似た音が聞こえる。
「まったく。仕方ねーな。本当に、手をつなぐだけだぞ。恋人つなぎは、ダメだからな」
弱まったぼくの手を、ユウゴくんは力強く握り返す。
「痛っ……、いたいよ」
「嫌、なんて言うなよ。ヨウスケが手を繋げって言ったんだから」
「言わないよ。そんなこと。……えへへ」ユウゴくんに手を握り返されて、ぼくの口が自然にほころぶ。ユウゴくんも、そんなぼくの様子を見てうれしそうに笑う。
手をつなぎながら、ぼくらは壁の掃除を続けた。ときどき、ぼくらは顔を見合わせる。明日は、こんな感じで外を歩いているんだ。手をつないでいるせいか、いつもより距離を近くに感じた。
(おわり)
それが口づけだと理解できたのは、宿舎の部屋に飛び込んでしばらくしたあとだった。
聖堂と宿舎をつなぐ学校の中庭をカルノと歩いていたら、いきなりほおに口づけされた。全身の毛が逆立ったのだけは覚えている。それからは、よく覚えていない。
ベッドにうつぶせになって枕に頭を押しつけて、ぼくはあのときの光景を思い出す。
そうだ、確か今日は、カルノが算数の小試験でひどい点数を取って、居残りが終わるまで教室の外で待っていたんだ。日が落ちかけた頃ようやく終わって、食堂で一緒にご飯を食べたあと、中庭で……。
顔が熱くなっていく。口づけされたのは、大宣教師様の像の前だった。男同士、女同士が慕い合うのを神は戒めているというのに、事もあろうに神の御言葉を伝える大宣教師様の前で、口づけされたのだ。
そういえば、カルノの様子は少し前から変だった。いつもみんなと明るくしゃべっていたのに、最近、口を閉ざすようになった。朝の聖唱で声が掠れたのをみんなが囃し立てたせいかもしれない。クラスで声変わりが始まったのは、カルノだけだったから。その時は声変わりなんて言葉も知らなかった。
ドアの開く音がした。カルノが戻ってきたようだ。ぼくは、枕に頭を埋める。カルノはどんな顔をしてるんだろう。怒っているのだろうか。ランプの灯が消えて暗闇がぼくらを包む。目を閉じると、カルノがベッドに潜り込む音が聞こえた。話しかけるどころか、様子をうかがう勇気も出なかった。
それから数週間、ぼくとカルノは一言もしゃべらずに過ごした。何を話せばいいかわからなかった。
胸がもやもやしていた。カルノは、なぜぼくに口づけしたんだろう。確かにぼくも、カルノのことは嫌いじゃ、ない。でも、ぼくらはおとこ同士だし、何より、神が禁じている行為だ。ぼくらは将来、神に御仕えする身なのに。でも、このもどかしさは何なのだろう。もしあのとき、ぼくが逃げなかったら、どうなっていたんだろう。カルノと一緒になれたのだろうか。それとも……?
ぼくの頭の中を、いろいろな想像が駆け巡る。少なくとも友達としてずっといられるはずだったのに、逃げたことで全ての道を、閉ざしてしまっているような気がした。
今日も、一言も話さずにランプの灯が消える。暗闇がぼくとカルノを隔てた。
シーツからそっと足を出し、ぼくは床へと降り立つ。聞こえるのは、カルノの寝息だけだ。
ぴったり三歩。それが、カルノのベッドまでの距離だ。シーツをわずかにめくって、体を滑り込ませる。みしり、とベッドの立てる警告にぼくの体は固まった。でも、カルノはまだ気付いていないようだ。ぼくに背中を向けて眠っている。カルノの吐息を辿って、ぼくは顔を近づける。
ほっぺと思しき部分に、ぼくはそっと唇を付ける。カルノが小さく、うめいた気がする。ぼくは、カルノの肩を抱きしめて、舐めるようにほおや首筋に唇を付けた。あのときから時間を繋げようと思ったら、こうするしかないと思った。
カルノは、寝ぼけたような短い声を上げる。ぼくの名前を、小さく呼んだ気がした。
ごめん……と言おうとしたけれど、想いが大きすぎてのどがつまる。ごまかすように、ぼくはカルノのほおへもう一度口づけをする。
カルノは身じろぎをしてぼくの腕から逃れた。ぼくの腕が暗闇を抱く。ベッドがきしむと、カルノがぼくの背中を抱きしめてきた。闇へ引き込むようにカルノはぼくを抱き寄せる。カルノの脚が、ぼくの脚に絡みつく。カルノの手がぼくの髪を前から後ろへなで、温かい吐息が顔を鼻から額へなでる。ぼくの心臓の音が、部屋全体にこだましているような気がして、顔が熱くなる。
カルノの唇が、ぼくの唇に触れる。突然で少し戸惑いながらも、ぼくもカルノを求める。舌が絡み合う音と湿った吐息の音が、頭を満たした。
口が離れた。カルノは、ぼくの背中にのしかかる。ぼくはベッドにうつぶせになった。背中のカルノと、シーツにしみこんだカルノの匂いとに挟まれて、ぼくはくらくらする。だから、カルノが硬いものをぼくの腰に押しつけていても、それが何を意味するのか、ぼくにはわからなかった。でも、カルノがぼくのローブをめくり上げ、下着をずらすと、不安が頭をよぎった。あくまでもぼくらは将来、神に御仕えする身なのだ。このようなこと、大宣教師様がお許しになるはずがない。
カルノは、シーツとぼくの体の間に手を差し込んで、ぼくの硬い部分に触れた。ぼくの口から、沸騰したため息が流れだす。まるでていねいに洗うように、カルノはぼくの硬い部分をなで回す。
「カルノ……。これ、以上は……」
引き返そうと思えば、まだできた。でもぼくの声はもやもやして、よどんで消えた。ぼくはどこかで、カルノの行為を期待していたのかもしれない。カルノの硬い部分が、ぼくの体内へつづく部分に触れる。カルノは、しだれかかるように口をぼくの耳へ近づけた。
「でも……もう、口づけ、しただろ……?」
そうささやくと、カルノはぼくの中に入ってきた。ぼくは、目をつぶって、シーツを握りしめる。ぼくの外が、カルノのでいっぱいに広がる。こすれるような声が漏れて脚ががくがく震える。
カルノは、ぼくの胸を抱きしめながら、どんどん深く、入ってくる。カルノの重みで、ぼくはベッドに沈み込んでいく。深く入り込んだカルノが浅いところへ引いて、再び深いところへ沈み込む。ぼくの体は、カルノの動きに合わせて、ベッドとカルノの間を行ったり来たりする。まるで人形になったように、ぼくの体は言うことがきかなくなっていた。声変わりで少し掠れたカルノの吐息と体内から揺さぶられる感覚、きしむベッドの音が、ぼくのすべてだった。
ようやく感覚にすこし慣れてきた頃、ぼくは、そっと腰を動かし始める。カルノが、一番奥に入ってこられるように。でも、怖かった。その時にはもう、お腹を締め付けるような感覚が、お腹の底から沸き上がっていた。初めての感覚だけど、この行為に終わりを告げるものだと、なんとなくわかった。
「うんっ……んぅっ……カルノっ……! あんっ……カルノ……! んっ……」
だからぼくは、その感覚を押しのけようと、カルノの名を呼び続けた。カルノはぼくを呼び覚ますように、今まで以上に激しく小刻みにぼくの体を突き上げる。うつぶせになっているのがもどかしかった。カルノに抱きつけられれば、この破裂しそうな苦しみを、分かち合えるのに。
感覚が頂点に達すると、抱きつく代わりに、ぼくはカルノの匂いがしみこんだシーツを握りしめた。カルノがぼくの一番深いところへ入り込むと同時に、感覚がはじける。カルノの体温がぼくのお腹の中に何度も注ぎ込まれるのと同時に、ぼくのお腹の表面を、ぼくの体温と同じ温度の液体が飛び出て包んだ。
しばらくして、カルノはぼくから体を引き抜いて、横に寝転がった。ぼくも、体を表に返す。お腹を包むぼくの熱がローブにくっつき、カルノの熱が脚の付け根を伝う。暗闇でカルノには見えていないはずなのに、なんだか恥ずかしい。息が切れていた。顔も腕も手の中も、汗でびっしょりだ。
汗に濡れた手をローブでぬぐって、ぼくはカルノを抱きしめる。ようやくカルノを抱きしめられた。
「カルノ、ごめんね……。ぼく、あの時、急に逃げたりして……。あまりにもびっくりして、つい……」ぼくは、あの日のことを謝った。「で、でも、本当は、ぼく、うれしくて……」
顔に熱がのぼってきて、ぼくは、カルノの胸あたりに顔を埋めて熱を押しつける。もしカルノの顔が見えていたら、口から言葉すら出なかったのかもしれない。カルノは、ぼくの肩を抱きしめた。
「おれも悪かったよ。いきなり、あんなことして。どうやって気持ちを伝えればいいか、わからなくて」そう言って、カルノはぼくの腰に手を回した。ぼくは、顔を伏せる。
「ねぇ……。ぼくら、大宣教師様に、ものすごく怒られちゃうね……」わだかまりが消えると、今度は不安がぼくの胸を満たした。
「ふん……。それぐらい、死んでからいくらでも詫びてやるさ」
不安を吹き飛ばすように鼻で笑うと、カルノはぼくの後ろ髪を探る。おでこに、カルノの口が短く触れた。それから、ぼくの口を探るように、ほおや鼻に何度も口づけする。
早く、朝になればいいと思った。朝になれば、カルノの顔が、姿が見えるのだ。もしかすると、これは夢なのかもしれない。そう思うと、ぼくもカルノを求めずにはいられなかった。カルノも、たぶんぼくと同じ気持ちだったんだろう。
夜が明け始め、部屋の中に薄暗い光が注ぎ込まれて、ぼんやりとぼくの目にカルノの肩が映る。しわくちゃに乱れたシーツの上で、カルノの肩が上下している。汗ばんだほおのカルノと、目が合った。
疲れた体を起こして、ぼくらはもう一度、口づけをする。もう、互いを探り合う必要なんて、なかった。
(おわり)
手から涼太の感覚がなくなったような気がして、ぼくは目が覚めた。
窓から差す薄明かりを遮るように、涼太の影は、ぼくの隣で呆然としたように上半身を起こしていた。
ぼくに気づいたのか、恐る恐る涼太は振り向く。ぼくらは、一緒に産まれた。でも、ぼくと涼太の顔は、他人のように違っている。ぼくらは、二卵性の双子なのだそうだ。だから、顔が全然似ていなくても普通らしい。けれど、ぼくらは納得できなかった。テレビで一卵性の双子が同時に答えているのを見ると、無性に悔しかった。だからぼくらは、学校で別のクラスに分かれるとき以外は、いつも一緒にいた。
「どうしたの?」
ぼくは涼太に聞いた。でも、涼太は悩んでいるように、なにも答えない。同じベッドに、同じ色のパジャマ、同じ枕。寝る前には、いつも手をつないでいた。だけど、なんだか急に涼太がぼくから離れていくような気がした。ぎこちなく、涼太はぼくの方に上半身を向け、布団に手をついた。
「むせい、しちゃったかも……」
今度は、ぼくが呆然とした。涼太は、パジャマのズボンの前をパンツと一緒に引っ張って、ぼくに見せた。鼻に絡みつく匂いがして、白い液体が、パンツとお腹との間で糸を引いていた。数日前に保健の授業で習った言葉だった。初めて見た精液だった。涼太がぼくから離れていくような気がした理由がわかった。ぼくより先に、涼太は大人になってしまったのだ。悲しかった。いつも一緒に過ごしていて、ぼくらは一心同体だと思っていたのに。なのに、やっぱりぼくらの間には、深く裂けた溝があるんだ。
「どんな夢を、見たの?」
ぼくは、手をついた布団を握りしめていた。少し、いらだっているのがわかった。
「ど……どんなって……その……」
急に、涼太はぼくから顔をそらし、もじもじと腰を動かす。
「答えてよ」
「孝太と……」涼太は、ぼくを一瞬だけ見つめた。「えっちなこと……する夢。実は、この前の保健で、えっちな……話があって……。それで、きっと……」
「どんなふうに……したの?」
「ふぇっ……!?」
涼太の肩が、びくんと浮いた。
「だって……。涼太はそれで夢精したんでしょ?」ぼくは、涼太に体を寄せる。「だったら……ぼくにも、同じことしてよ。涼太ばっかり先に……ずるいよ」
涼太は、うなずくように顔を伏せると、しばらく黙り込んだ。涼太がどんな夢を見たのか、ぼくにはわからない。でも、ぼくのクラスでも保健の授業はあった。もし、本当にそういう夢だとしたら……。そう思うと、胸がだんだん、沸き立つようにドキドキする。
涼太は、顔を上げた。ぼくの方へ体を寄せ、肩へ手を回すと、胸に体重をかけてきた。ぼくは、枕へと押し倒される。吐息がぼくの口に触れるほど、涼太の顔が近い。
「さ、最初はね」つぶやくような涼太の声が、ぼくの唇に触れた。「キスを、したんだ……」
やわらかくて濡れたものが、ぼくの唇に触れた。ぼくの背筋が、じわじわしたものに満たされていく。
「少しだけ、口を開けて……」
一瞬だけ唇を離して、涼太は言った。ぼくは、涼太の言われるままにした。涼太はもう一度唇を合わせると、ぼくの髪に手を回した。口の中に、唇よりももっとやわらかくて、熱い物体が入ってくる。ぼくは、どうすればいいか分からなかった。ただ、涼太の舌に、ぼくの舌を触れさせるのに精一杯だった。だから、涼太がぼくの舌を舐めとるように激しいキスを繰り返しながら、ぼくのパジャマのズボンに手をかけていても、ぼくは何も言えなかった。だって、ぼくの口の中も頭の中も、涼太でいっぱいになっていたのだから。キスって、唇をちょっと合わせるだけだと、ずっと思っていた。
ぼくから唇を離すと、涼太はぼくのズボンを半分脱がし、自分のも脱いだ。精液で色の落ちたパンツの前の空いた部分から、涼太は硬くなったものをのぞかせる。ぼくは、涼太が何をしようとしているのか、よく分からなかった。ただ、ぼくのも、パンツの中で涼太と同じくらい硬くなっていた。
涼太は、ぼくに覆い被さる。パンツごしに、涼太のが触れる。どうしてだろう。ぼくの体は、まるでベッドにくっついているみたいに、びくとも動かない。これから、いけないことをする予感がするせいだろうか。もちろんキスだって、いけないことだ。でも、キスぐらいなら、テレビでも見たことがある。でも、それ以上のことは、見たことがない。だから、本当に、いけないことなんだろう。
涼太の手が、ぼくと涼太のパンツの間に入る。指が踊って、前の空いた部分からぬるぬるが入ってくる。
「んっ……。ひぁ……な、なに……?」
ぬるぬるがぼくのに直に触れて、ぼくは思わず声を上げた。滑るように、ぬるぬるはぼくの硬くなった部分をなぞる。ぬるぬるに包まれて、やわらかいものがぼくに触れていた。硬くて、先っぽだけやわらかいぬるぬる……。涼太の、だった。
ベッドが、きしんだ。涼太の先っぽが、ぼくの硬くなった部分を押し上げるように滑る。さっきとは別の快感が押し寄せて、ぼくの口が震えた。涼太は、ぼくの口をその口で塞いで、何度も腰を振る。涼太が突き上げると、ぼくの腰もそれに反応するかのように虚空を突き上げた。
ぼくらのが、ぼくのパンツの中で、ぼくらの息が、口の中で、一つになってとろとろになる。ベッドが悲鳴を上げる。隣の部屋で寝ているお母さんやお父さんに聞こえているかもしれない。でも、そんなこと、どうでもよかった。ただぼくは、涼太の行為に、身を任せるだけで十分だった。
じわじわと、お腹の奥の方から何かが沸き上がってくるのを感じた。射精……するのだろうか。
ぼくは、涼太の背中を強く抱いた。それが伝わったのか、涼太は腰を振る速度を速める。ぼくの先っぽに、どんどん押し寄せる精液。それを後押しするように、何度も何度も、ぼくの精液が通る硬い部分を涼太の先っぽがこすり上げる。ぼくは、首を大きく振って、涼太の口から逃れた。もう、限界だった。あふれ出ようとする精液を押しとどめようと、ぼくは歯を食いしばる。
その時、涼太の動きが止まった。熱いものが、ぼくのを射貫くように覆い尽くす。涼太が、射精していた。そのとたん、ぼくの腰がはねるように浮いた。先っぽから力が抜けて、精液が破裂したように飛び出す。ぼくと涼太の熱が、パンツの中を覆い尽くしていた。涼太は、改めてぼくの肩を強く抱いた。ぼくも、射精の勢いで浮いた腕を、涼太の背中に回す。
射精が終わると、ぼくは、涼太の顔を見つめた。激しく息をつく涼太の顔は、おでこが少し汗ばんで、前髪がくっついていた。まるで、吐息を最後まで味わうかのように、ぼくらは、もう一度口づけを交わした。
腕から涼太の感覚がなくなったような気がして、ぼくは目が覚めた。
薄明かりが、窓から差していた。さっきのは、夢だったのだろうか。体を重ねていたはずの、涼太の姿もない。でも、パンツのあたりに、変な感じがする。
ぼくは、思わず跳ね起きた。その隣でも、何かが跳ね起きた。涼太だった。
「どうしたの?」
同時に口が開いた。ぼくらは、息を飲み込む。互いに目配せをしたけど、また、同時に口が開く。
「夢精、しちゃったかも」
ぼくらは顔を見合わせた。ベッドに座ったまま、ぼくらはにじり寄る。パンツの中を、見せ合う。夢とは違って、涼太のパンツの中もぼくの中も、白くてねばねばした液体に覆われていた。
「ねぇ」ぼくは、ささやくように言った。「もしかして……ぼくと、えっちなことする夢……見てた?」
涼太は、驚いたようにぼくを見上げた。そして、小さくうなずいた。ぼくは、涼太の背中に手を回す。言葉は、いらなかった。涼太もぼくの背中に手を回した。そして、夢の中の出来事をもう一度しようと、ぼくらはベッドに横になる。ぼくが下で、涼太が上。やっぱり、同じ夢を見ていたんだ。一緒に夢精して、一緒に大人になれてうれしい。でも、それは夢の中での話だ。これから、ぼくらは現実の世界でも一緒に、大人になるんだ。
涼太は、ぼくの目を見つめると、少しぎこちなくぼくに顔を近づけた。最初は、キスだ。
(おわり)
※ 以下には、公式サイトのあらすじ以上のストーリーに関するネタバレは含まれていません。
「ストレンヂア -無皇刃譚-」を見ました。戦国時代、体に秘めた謎のために刺客に追われる少年、仔太郎は住処を追われ、逃げ込んでいた荒寺で「名無し」の侍と出会います。そこに刺客が迫り、一戦を交えたことがきっかけで二人は一緒に旅をすることになり……。という剣劇アニメーション映画です。
本作の見所は、実写では不可能な、息を飲むほどのアクションシーンです。初めから最後まで、剣士の見せる刀や体の動き、激しいカメラワークに目が釘付けになります。またそれと対をなすように、主人公の少年、仔太郎のかわいさに癒されます。いたずらっぽい笑み、時折見せる悲しげな面持ちや名無しの態度に激高した表情など、子供らしい表情の変化がたまりません。仔太郎自身は、刀を振るう登場人物の多い本作の中では、とても弱い存在です。だから、生意気な言葉を吐いて強く見せようとしている。けれど否応なしに争いへ巻き込まれていく……そのいじらしさと運命に、守ってあげたい想いがかき立てられます。
脚本を担当した高山文彦氏は、本作を男同士の恋愛ものとして描いたそうです(限定版DVDに付属のブックレットより)。もちろんこれは、強いもの同士が惹かれあう様や、特殊な事情を抱えた名無しと仔太郎との少し変わった関係などを一言でまとめての言葉です。実は、本作にはヒロインらしき女性は出てきません。それゆえに、仔太郎のヒロイン性がなおさら際立っています。
ストーリーの本筋自体はとてもシンプルです。しかし、本筋の裏でいくつものストーリーが同時進行しており、最後にしっかりまとまる流れになっているので、決して単調ではありません。複雑な展開がないため、ストーリーの展開に気を取られることがなく、画面に集中することができます。単純に面白い映画として、頭を空っぽにしてアクションを眺めるにしても、真剣に物語を楽しむにしてもどちらでも楽しめる絶妙なバランスが保たれています。
主人公や一部の登場人物の声は本職の声優ではない方が担当されていますが、画面から声が浮くようなこともなく、自然に聞こえました。成功例といっても差し支えないと思います。
PG-12指定を受けているとおり、本作には残酷描写があります。刀によって血が噴き出したり体の一部がちぎれ飛ぶシーンもあります。ただし、それを長時間強調して見せるわけではなく、激しく動き回る戦闘シーンの最中に短く見せるように工夫されているので、驚きはしたものの、興ざめすることはありませんでした。
冒頭5分間の参考動画も公開されていますので、ぜひご覧ください。ただし、参考動画は戦闘シーンが主なので、前述の残酷描写が含まれます。参考動画の最後に付いているプロモーション映像、予告編、インタビュー動画では、仔太郎の魅力の一部を垣間見ることもできますが、ネタバレも含まれるのでご注意ください(仔太郎の姿は見られますが、声は聞けません)。なお、劇中にて、少年である証拠もきちんと出てくるので、実は女の子だったという展開にがっかりすることもありません。
某掲示板に投下したものを含む、拙作のショタSSを保管しています。
読んでくださり誠にありがとうございます。
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